東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)65号 判決
原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
原告は、審決が、本件発明と各引用例のものとの対比判断を誤り、かつ本件発明の顕著な作用効果を看過したと主張するのであるが、その主張する対比判断の誤りとは、本件発明の必須の構成である「中型を一列状に並設し、しかも、これらの各中型には、外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ溝切ピンをそれぞれ突出させている」点は第一引用例ないし第四引用例のいずれにも開示も示唆もされておらないというのであり、その主張する顕著な作用効果とは、次の三点に帰する。
(イ) タイル焼成後、二枚背合わせのタイルを正確かつ簡単に分割できる。
(ロ) タイルの押出し成形時に、中型、溝切ピンを正確な一列状態に維持することができ、その結果、正確な二枚背合わせタイルを成形することができる。
(ハ) 溝切ピンの摩耗及び溝切ピンによつて形成される細溝の長さ調整に対処することができる。
よつて、右の各点について順次原告の主張の当否を検討する。
1 対比判断について
成立に争いのない甲第六号証の一、二によれば、第四引用例には、ブロツクの押出成型機の口型で、口金本体の内部にその上下中心線上に中子を並設し、中子の側面には切刃が横向きに突出して設けられた二分割して使用されるブロツク押出成型機の口型の写真が示されていること、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、タイル製造にスクリユー押出成型機が使用されること及び二枚一緒に成形し、焼成後分割するタイルの製法が記載されていること、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、切断によりいくつかに分割して製品とする空胴タイルの製造装置として、口金、中子、中子を支持する支持枠及び切刃を有するスクリユー押出成型機が記載されていること、がそれぞれ認められる。
そうすれば、ブロツク成型押出型も、タイル成型押出型も、成形する機能において変るところはないのであるから、第二引用例の押出型を第四引用例の押出型に代えて第一引用例の二枚背合せ状のタイルを製造するようにすることは、当業者にとつて容易に推考することができる程度のことというべきである。
もつとも、第四引用例に示されている溝切ピンは、原告指摘のように、外型内部の中心線上に沿わせた方向へ一列に配置されておらず、段差が設けられているが、正確な二分割タイルを成形する場合に溝切ピンを右中心線上に沿わせた方向へ一列に配置することは自明の事項というべきものであるし、しかも、成立に争いのない乙第一号証によれば、本件発明のように、溝切ピンを外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ一列に配設する技術的思想は、第四引用例のもののように、溝切ピンに段差を設けて溝切ピンの作用を改善する押出成型機についての技術的思想に先行するものであることが明らかであるから(乙第一号証第二欄第五行~第一三行)、溝切ピンを外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ一列に配設することは、既に第四引用例が存する以上、当業者の容易に想到しうることにすぎないというべく、審決が本件発明は第一引用例ないし第四引用例の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとしている判断に誤りはなく、原告の主張は理由がない。
2 顕著な作用効果について
(イ)の作用効果について
前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、「煉瓦を半分ないし四分の一に、又は種々の形状に分割するのを容易にするため、本発明では、粘土の塊がこの口金を通過し、口金から外部へ押出される直前に、煉瓦の表面においては目立たないが、最終的に出来上つた製品では固有の跡をとどめ、粘土の塊の割目がこの痕跡線上に限定されるような口金を設けている。」(第一頁右欄第四一行~第四九行)、「空洞タイルの製造に本発明を応用する例を第8図及び第9図に示す。……これらのものは、空洞タイルの装置に常用される構成であり、そのうち支持枠及び中子が各三個のものを第9図に示す。この場合、成形品39の孔の内側面に切溝38を設けるように中子36に取付けた切刃37によつて所望の切溝線が内側に刻設される。」(第二頁左欄第六九行~右欄第九行)(別紙第二図面参照)との記載があることが認められ、これによれば、第二引用例の第8図及び第9図に示された中子36に取付けた切刃37によつて刻設された切溝38は、そのタイルを切溝の位置で正確かつ簡単に分割するためのものであることが判るから、第二引用例のものが奏する右の作用効果は、本件発明の前記(イ)の作用効果と同じであるというべきである。
したがつて、これを本件発明の顕著な作用効果であるとする原告の主張は理由がない。
(ロ)の作用効果について
当事者間に争いのない本件発明の要旨によれば、本件発明は、一列状に並設された中型に外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ溝切ピンをそれぞれ突出させたものであるから(この構成が引用例の記載から容易に推考しうる程度のものであることは既述のとおりである。)、タイルの押出し成形時に、中型、溝切ピンを正確な一列状態に維持することができるのは当然のことであつて、格別の作用効果ということはできない。
原告は、中型と溝切ピンとが一列状に配設されていなければ、すなわち、中型に対し溝切ピンが偏在すれば、溝切ピンに加わる力が不均衡となり、中型自体が偏在して正確な二枚背合わせタイルを成形することが不可能である旨主張するけれども、一般の技術常識からすれば、画一な形状をつくる場合に、粘土の押出しで偏在してしまうようなものは、もともと型―中型及びピン―とはいわないものと考えるのが自然であつて、この技術常識に反し、特に本件発明の中型においてはこれが偏在してしまうものであるとの事実を認めうべき証拠はない。
したがつて、前記(ロ)の点を本件発明の顕著な作用効果であるとする原告の主張は理由がない。
(ハ)の作用効果について
成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例には、「溝および嵌合部分は口型の外部に鉄板を附着してつくるのが普通であるが、これが坏土を掻き取る作用をするので、ブロツクの表皮が移動する可能性がある。それで、もしできるならば、口型自体に突起部分をつけた鋳物にすればよい。しかし、摩耗による取換えがはげしいので、掻取板かまたは螺旋止めした棒をよく使用する。」(第六四頁右欄末行~第六五頁左欄第五行)との記載があることが認められるから、これによれば、第三引用例のものは、溝切用の棒が摩耗による取換えのために螺旋止めされているものと解される。そして、溝切用の棒の着脱が自在であるということから、棒の長さの変更が容易であり、したがつて、形成される溝の長さ(深さ)の調節が容易であるという作用効果を奏するものであることが明らかである。
そうすれば、第三引用例のものが奏する右の作用効果は本件発明の前記(ハ)の作用効果と同じであるということができる。したがつて、これを本件発明の顕著な作用効果であるとする原告の主張は理由がない。
以上のとおりであり、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がない。
〔編註その一〕 本件における発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本件発明の要旨
1 タイル成型用の粘土を送出し可能に構成した押出孔の開口端部には二枚背合わせ状の結合タイルの各表面を成型する外型を備えさせ、この外型内部の上下中心線上には上記押出孔の奥部に位置する中型支持枠によつて端部を支持されている適数個の中型を一列状に並設し、しかも、これらの各中型には上記外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ溝切ピンをそれぞれ突出させていることを特徴としたタイル成型用押出型。
2 タイル成型用の粘土を送出し可能に構成した押出孔の開口端部には二枚背合わせ状の結合タイルの各表面を成型する外型を備えさせ、この外型内部の上下中心線上には上記押出孔の奥部に位置する中型支持枠によつて端部を支持されている適数個の中型を一列状に並設し、しかも、これらの各中型には上記外型内部の上下中心線上に沿わせた方向へ溝切ピンをそれぞれ取外し自在に突出具備させていることを特徴としたタイル成型用押出型。
審決の理由の要点
本件発明の要旨は前項記載のとおりである。
本件発明の特許出願前日本国内において頒布された刊行物・「タイルと衛生陶器の知識並施工法」昭和三二年一〇月二〇日発行、第五六頁、第五七頁(甲第三号証、以下「第一引用例」という。)には、タイル製造にスクリユー押出成型機が使用されること及び二枚一緒に成形し、焼成後分割するタイルの製法が記載され、同様の刊行物・米国特許第二二〇九六四三号明細書(甲第四号証、以下「第二引用例」という。)には、切断によりいくつかに分割して製品とする空胴タイルを製造するための装置として、口金、中子、中子を支持する支持枠及び切刃を有するスクリユー押出成型機が記載され、同様の刊行物・「窯業協会誌」第七二巻第八一八号、昭和三九年二月一日発行(甲第五号証、以下「第三引用例」という。)には、押出成型機によつて製造される空胴煉瓦の側面に溝をつくるために、口型自体に突起部分をつければ良いが、摩耗によつて取換えがはげしいので、ねじ止めにした棒をよく使用することが記載されており、同様の刊行物・「国際建築」第三〇巻第四号、昭和三八年五月一日発行(甲第六号証、以下「第四引用例」という。)には、口金本体の内部に、その上下中心線上に中子を並設し、中子の側面には切刃が横向きに突出して設けられた、二分割して使用されるブロツクの押出成型機の口型の写真が示されている。
そこで、本件発明と第二引用例のものとを比較すると、両者は、タイル成型用の粘土を送出し可能に構成した押出孔の開口部にタイルを成型する外型を備え、その押出孔の内部に中型支持枠によつて端部を支持されている数個の中型を設け、かつ、後の切断処理を容易にするための切刃を設けたタイル成型用押出型である点で類似しているが、開口部に二枚背合わせ状の結合タイルの各表面を成型する外型を備え、外型内部の上下中心線上に適数個の中型を一列状に配設し、各中型に上下中心線上に沿わせた方向に溝切ピンをそれぞれ突出、または取り外し自在に突出させた点で相違している。
右の相違点について検討すると、開口部に二枚背合わせ状の結合ブロツクの各表面を成型する外型を備え、外型内部の上下中心線上に適数個の中型を一列状に配設し、かつ、各中型には横向きに溝切ピンを設けたブロツクの押出型は、第四引用例に記載され、本件特許出願前に公知のものであり、しかも、タイル成型押出型もブロツク成型押出型も、成型する機能においては変りはないものと認められるから、第二引用例の押出型を第四引用例の押出型に代えて、第一引用例により公知の二枚背合わせ状のタイルを製造する程度のことは、当業者が容易に考えられることであり、その効果も、公知のものにすぎない。
また、第四引用例に記載された溝切ピンは、中心線上に存在せず段差を設けてあるが、二分割タイルは、上下中心線に沿つて分割することが公知である以上、溝切ピンを中心線上に一列に配列することは、単なる設計変更にすぎず、それによる効果も、格別なものとは認められない。
そして、溝切ピンを取り外し自在に設ける点については、第三引用例に、空胴煉瓦の溝切りのための突起部分を摩耗による取換えができるように、ねじ止めした棒にする旨の記載があり、押出成型機による煉瓦の溝切の機構を同様に押出成型機によるタイルの製造に応用する程度のことは、当業者にとつて容易なことである。
したがつて、本件発明は、第一引用例ないし第四引用例に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定に違反して特許されたものであり、同法第一二三条第一項の規定により、その特許を無効とすべきものである。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
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別紙第二図面
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